二泊三日で京都旅行 1




京都旅行一日目。大学卒業を記念してサークルメンバーで京都に行ってきた。残念ながらそれぞれの都合が合わなかったり、キャンセルせざるを得なくなった人が出たため予定より少ない人数での旅行となったが、八人で思う存分京都を堪能してきた。

とはいえ出発前から自分は一つの不安を抱いていた。この面子、きちんと新幹線の出発時刻までに集合することができるのだろうか。大概サークルメンバーで待ち合わせをすると誰かが遅刻、ひどいときには集団で遅刻してきやがるのである。だが、これはサークルメンバーに限った話ではなく、高校の美術部仲間にもその傾向があり、幼馴染の友人も遅刻の常連である。単に自分がそんな星の下に生まれてきただけかもしれない。全くひどい星もあったものだ。つっても集合時間二十分前に到着する計算で予定を組んだくせに、道に迷って目的地に到着することすらできなかった過去を持つ方向音痴が言えた義理ではない。その後電話で連絡を取り合って無事回収していただいた。とても恥ずかしかった。

結果、心配は杞憂に終わった。皆が時間前には到着していた。これは良い。とても良い。しかし! 八人のうち四人が集合場所とは全く違うところでまったりくつろいでいやがった。四人もいるのに四人のうち全員が何一つ疑問を持たずにいるってんだからすげぇ。方向音痴として悪名高い自分まで呆れさせるとは大したものである。



新幹線に乗り込む前に昼飯を購入した。少々値が張るが旅行なのでこのくらいの贅沢は良かろう。ご飯がぎっしり詰まっていて腹も膨れて満足した。当初は崎陽軒のシウマイ弁当を買うつもりだったのだが、陳列ケースに並べられたそれをよく見たらシウマイ弁当ではなくただのシウマイオンリーだったので変更した。ご飯が無いのは寂しい。

八人だったので三人、三人、二人に分かれて座席に着き、前方の三人の座席を回転させて向かい合わせにし、ガイドブックを開きながらどこに行こうかと話し合った。実はこの旅行、ここに来るまで全くのノープランで、新幹線の切符と宿の手配しか準備はしておらず、皆が漠然とどこどこに行きたいという希望を抱いているだけという適当にも程がある有様だった。ちなみに後ろの二人は話し合いの輪に入れなくて可哀想に思えるかもしれないが、二人してずっとポケモンをやっていたので何の問題もなかった。このポケモントレーナーのうち一人は二日目の自由行動で京都まで来てメロンブックスで同人誌を買い、サイゼリヤでまったり過ごし、京アニで買い物をするというものすごい自由っぷりを見せ付ける。格好良すぎるだろお前。

新幹線は昼過ぎごろに無事京都に到着。チェックインにはまだ早いが、幹事がホテルに荷物を預けられるよう頼んでおいてくれていたので一旦ホテルに向かうことにした。すると既に部屋は用意してあるから入って良いよとホテルの人に言われたので、遠慮なく部屋に入らせてもらった。おお! 広い! 窓からの眺めはよろしくないがこの安さでこの広さと設備なら何の文句も無い。頑張って良いプランを探してくれた幹事に大感謝である。



宿でゆっくりするのも良いが、せっかく京都に来たんだからってことで早速皆で観光に繰り出すことにした。少し歩き出しただけで何やら「京都っぽい」道に出て自然とメンバーのテンションは上昇して行く。この道を歩くだけで何回立ち止まってシャッターを切ったかわからない。橋を渡ったり、川を覗き込んだり、川を覗き込んだ奴を突き落とそうとしたりしてキャッキャウフフワーワーハハハとはしゃぎまくった。通行人が見たらちょっとお前ら落ち着けと心の中で突っ込んだことだろう。多分数人に突っ込まれたな。

とりあえず今日は八坂神社に行こうという話になり、では八坂神社を目指す過程でどこを通ろうかってんで知恩院に行ってみることにした。法然上人縁のお寺である。



一人の階段と坂を愛する友人曰く、「これはすごく良い坂」とのことだ。なだらかな傾斜で歩きやすく、奥行きが感じられる様子がよろしいらしい。この友人が、小さい頃庭に生えていた苔を何となく毟りまくっていたら祖母に叱られた話をしてくれた。当時は何故叱られたのかわからなかったが、今ならわかると彼女は言う。自分も小学生の頃傘の先でタイルとタイルの隙間の苔を穿り返したりしたなぁ。楽しくて。





到着すると門全体に白い工事用のカバーがかけられており、もしかして中には入れないのかと不安を感じたが中には入れてもらうことができた。



写真は無いが、濡髪大明神と千姫のお墓にもお参りをしてきた。千姫とは秀吉の息子秀頼に嫁いだ徳川家忠の長女である。メンバーに一人武器と武将のファンがいたため熱く解説をしてくれた。今回の旅行では、上代文学、近代文学、武器、武将、カメラ、手相、地理、ジョジョ、と何かしらに詳しい奴、もしくはマニアがいたためどこかしらで誰かが語りだして大変に面白かった。



知恩院を出たところで腹が減り、どこかでお茶をすることにした。一度目的地である八坂神社にも着いたのだが、いやいややはりその前にとその周辺をぶらぶらし、趣のある一角に入ってそのうちの一軒でおやつにすることにした。



写真をアップするといかにもこの店に入ったようだが、これは何となく撮っただけで入ったのは別の店である。抹茶のメニューが充実した店で、抹茶のメニューが充実していたにも関わらず自分は欲望の赴くままに抹茶とは何の関係も無いわらび餅を頂いた。餅自体が黒い色をしていてとても柔らかく、つるつるぷるぷるしていて美味しかった。普通の民家を改造したようなお店だったな。



腹ごしらえが済んだところで目的の八坂神社である。祇園祭で有名なあの神社だ! 西楼門から入ったのだが、出るときに向かいのビルのてっぺんに真っ黒なアンテナが日の沈みかけた空を背景ににょきにょきと生えていてやたら印象に残った。





自分は古事記を専攻していたので、スサノヲが御祭神と聞くとテンションが上がる。スサノヲには世話になったなぁ。研究のメインはヤマトタケルだけど、スサノヲとの比較研究も行ったから既に他人のような気がしない。そこまで親しみを感じるのもどうかと思うが。

それにしても、こんな神社が身近にある京都の人はいいなぁ。人生の節目に気軽に詣でられるのが羨ましい。ちょっと散歩に行ける範囲の、日常の中にあるってのが良いよなぁ。しかし、京都ではないが観光地に住む友人曰く、観光地には観光地なりの苦労があるとのことだ。年がら年中ハレ全開の人がやって来るので普通に日常を過ごしている人々にとっては迷惑なことも多々あると言う。観光客は「せっかくの旅行だから」と羽目を外すが、現地人にとってはそんなことは関係なく、商売をしているならともかくただそこに住居を構えているだけの人間にとってはひたすら迷惑なだけとの話だ。うむ、我々も気をつけよう。

八坂神社を出て、もう一つどこかを観てから宿に戻ることに決めた。宿のプランは朝食はついているが夕食はついていないので、宿の玄関が閉まる前なら何時に帰ろうとも問題はない。と言ってもあまり遅くなりすぎても疲れるし、明日もあるのであと一つ、それで夕飯を店で食い、酒とつまみを買い込んで風呂に入ってから部屋で宴会をすることになった。



じゃあ伏見稲荷に行こうぜ! と言い出したのは誰だったか定かではないが、一同異論無く次の行き先を決定し、道々の風景を楽しみながら歩いたところ、着いた頃には夕方で、あたりは暗くなり始めていた。雨もポツポツ降り出してきたように思う。天気予報を見ていたため全員傘は所持していたが、ちょいと面倒なことになったなとは正直思った。



このあたりだったかな。そうそう、当初は店で夕飯をとるのではなく、河原町の錦市場でいろいろと買い込んで、宿で食べようと話していたんだった。ところが錦市場が十八時に閉まってしまうことが判明し、予定変更したんだったかな。この写真を撮ったときには既に十八時を過ぎていた。ぼんやりと光る提燈が何とも幻想的で美しい。幻想的で美しいが、小雨と夕闇の影響で写真を撮ることが難しくなってきた。どうしても画面がぼけてしまうのである。

フラッシュを焚いても改善しない。これはいったいどうしたものか。どうにもできないもんなのかなぁ、と同じくデジカメを持った友人と話していたら、突如始まったカメラ講座。一人の写真好きの男が立ち上がり、我々に暗がりでの写真の撮り方をレクチャーしてくれた。なるほど、写真がぼやけるのは光が集まらないことが原因なのか。だから、なるべく灯りの下などの明るいところから撮影するのがよろしいらしい。あとはカメラについている機能を有効活用するとか。明るいものにピントを合わせるのもポイントらしい。ためになるなぁ。





友人による指導の結果がこのような感じである。そうこうしているうちにどんどん暗くなってきた。もうこりゃ夕方じゃなくって夜だなぁ。この暗さで千本鳥居を抜けるのは危ないかもしれない。だが、せっかく来たのでせめて途中まででも歩いてみることにした。伏見稲荷に来た一番の目的がこれだしな。



トンネルのように続く無数の鳥居だ。延々と奥へ奥へと鳥居をくぐっていくのは、どこか異世界への道を通っているようで怖々とした思いがこみ上げてくる。一つ鳥居をくぐる度にだんだん人間じゃなくなっていく心地がしてゾッとしつつも面白い。これは…夜に来て良かったなぁ…。ここをくぐっている最中には思わなかったが、今こうして写真で見ると何か巨大な生き物の体内を歩いているようでもあるね。

鳥居を抜けた先はさっきまでの狭さから一転してパッと視界が開ける。このギャップが面白い。奥社奉拝所と言うそうで、この先にも鳥居は続いているのだそうだが、時間が時間なのでここで引き返すことにした。

ここに「おもかる石」という石灯籠がある。願い事が叶うか否かを念じてから石を抱え上げ、石が思ったよりも軽く感じたなら願いが叶うそうだ。願いの内容は書かないがもちろん試さないわけがない。………これ、思いっきり重く予想しといた方がいいぞ。やってみようって人は是非、さ。

個人的に伏見稲荷退社の千本鳥居は今回の旅行のマイベストだった。他のメンバーも言っていたが、また京都に来る機会があったら今度は是非とも全ての鳥居をくぐって来たい。このとき、いっそ深夜にホテルを抜け出して制覇しに来るかと冗談交じりで話したが、流石にそれは実行しなかった。迷惑がかかるのもあるが、何より疲れていたのである。

うどんと丼の店で夕飯をとってから、酒とつまみを買い込んで宿に帰着した。店では自分は京風カレーうどんなるものを注文したのだが、これ、カレーの味がほとんどしなくて驚いた。とろっとした出汁の味にほのかにカレーの風味が感じられるといったもので、普段食べなれた出汁でカレールーを溶かしたドロドロしたうどんとは全然違っていた。これは京都のカレーうどんがこういう様式なのか、それともこの店が単にこういう風に作るだけなのか気になるところだ。これを知るには別の店でもカレーうどんをたのんでみれば良いのだが、京都まで来て二食も同じものを食べるのは嫌だ。

宿の部屋は二部屋とってあり、男部屋と女部屋に分かれている。宴会は女部屋で行うことになり、風呂に入った後皆で女部屋に集合して乾杯をした。当初は明日もあるし、疲れているし、ほどほどにしてさっさと寝ようと言っていたのだが、まーそうはならんわな。馬鹿話をしたり馬鹿騒ぎをしたり真面目に語り合ったりしたりしているうちに気付けばあっという間に二時を過ぎている。朝食のバイキングは七時から九時まで。当然食べないわけにはいかないので寝不足の体で朝飯をガンガン食らうこととなった。しんどかった。


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