町田康 「犬とチャーハンのすきま」 1





待ちに待った町田康のニューアルバム、「犬とチャーハンのすきま」をついに手に入れた。しかし、三月には店頭発売日は四月末と予告されてはいたものの、四月の下旬になっても発売日が明確にならず、アマゾンやタワレコの商品情報にも表れないためどうなることかと思っていた、が、四月二十八日発売日! ぴったり当日に手に入れられた。ただ、調べたところ入荷している店舗はものすごく少ないらしい。これから手に入れたい場合しばらくはネット注文を選択した方が良さそうだ。

意外なことにジャケットは紙ジャケ。今までは普通のプラスティックケースだったので店頭で見つけた際に「おや」と思ったが、おやと思っただけである。ただこれ、包んでいたビニールがすっげぇぴっちりしていたせいで開封するのに結構難儀した。最終的にはGペンの先を突き刺して穴を開け、そろそろと破いていったのだが、傷をつけないようにって気を遣ったせいで一仕事だったなぁ。

ジャケットの表の女性が着ている服にプリントされている柄は、こういうプリントがされた服なのではなく、後から写真の上に押したように見える。何のマークだろう。町田康の「康」の字かな。馬車の窓から町田康がそっと覗いていることに後から気付いて噴き出した。これまでのドアップぶりからは考えられないほどの慎ましさである。裏のジャケットではさりげなくチャーハンが存在感を主張していてこれまた笑った。最初は気付かんかったよ。

それで歌詞カードを取り出して驚いたんだが、写真で見てわかるかな。これ、いわゆる「歌詞」と言われて思い浮かべるような、一行に一文で段落を変えて、って形じゃないんだよね。九曲目の「あなたの終局」だけその形式なんだけど、他は全部まるでそれぞれが一つの短編小説のような形で書かれている。また、ボーカルは誰、ギターは誰、録音場所はどこ、録音日はいつ、といったアルバムに関する情報も一つの文章で、町田康の言葉によって語られている。アルバム情報すら一つの作品にしてしまうって、見事だなぁ。四つ折りにしただけの一枚の紙で、カラーでもなく、写真もないあっさりとした歌詞カードなのに物足りなさなど一つも感じない。手抜きじゃないもん、これ。歌詞カードって作品に仕上がってるんだ。

ってまだ曲について一言も書いてないのにこんな長々語っちまってどうすんだよ。まぁ仕方が無い。久しぶりの新譜にテンションが上がってしまっているのだ。しかもこいつがかなり自分の好みだってんだから、そりゃ、なぁ。上がらないわけもないさ。

じゃ、収録曲のタイトルを一から抜粋してみるか。

頭が腐る
俺はいい人
饂飩出汁
頭のなかの青い海
うどんのなかの世界
なんで?
道端のおっさん
ひとり盆踊り
あなたの終局
爛漫
あなたにあえてよかった
I am fool.

十二曲中二曲のタイトルにうどん。どんだけうどんが好きなんだよ。また、歌詞中にうどんが含まれるものは十二曲中五曲であった。どんだけうどんが好きなんだよ。

まずは一曲目「頭が腐る」から。こいつを聴いて驚いた。……あれ、何だか声が爽やか…じゃないか………? どうした! こんなに爽やかだったか? 何があった!? って思ったが、最初だけだった。あーびっくりした。「頭が腐る」は結構声にエフェクトをかけているように聴こえる。

全体的なアルバムの感想としては、前作の「脳内シャッフル革命」とだいぶ曲の雰囲気が違う。今回使われている楽器はピアノ、フルート、マリンバ、ドラム、テルミン、キーボード、ギター、ベース、前作はドラム、パーカッション、キーボード、ギター、ベース、ってんだから音も違って当然なのだが、何かね。すごくキラキラしてる。曲にもよるが、ピアノが目立つせいかなぁ。ポップというか可愛いというか。そんなキラキラした音に乗せていつもの町田節が炸裂してる、その妙が良い。一曲目が異常に爽やかに聴こえたのは音の性質が違ったことも一つの要因かもしれない。

あと一番特徴的なのは、一曲の中で起伏が激しいものが多いってとこかな。とろ火でコトコト煮立てていたら突然鍋が爆発! 爆発!! 大爆発!!! 何事だー!? と驚愕して鍋の方を確認したら何事もなかったかのようにコトコト、てな感じ。唐突に爆発して唐突に静まってまた爆発して、だんだん間隔が狭くなっていく。こういう曲が多い。それがまたたまらないんだ。

まだ語りたいことは山ほどあるが、もうちょっと聴き込まないことには語りたくても語れないな。また明日。



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