プロとJamろうジャムセッション (2009年11月1日)

ライブバー「X.Y.Z.→A」で本日催された、太田明がセッションリーダーを務める「プロとJamろうジャムセッション」を観に行ってきた。
感無量である。

ここで簡単に説明すると、太田明とは筋肉少女帯の元ドラマーであり、活動凍結前までのいわゆる「90年代筋少」のメンバーだ。しかし再結成後の筋少には参加していないため、今の筋少には正式なドラマーはおらず、サポートドラマーも固定されていない。

九月の旧譜再発記念ライブでは爆風スランプ、X.Y.Z.→Aのファンキー末吉が筋肉少女帯のサポートとしてドラムを叩いた。このX.Y.Z.→Aには筋少のギタリストである橘高文彦も参加しており、ファンキー末吉が筋少のサポートをしてくれたのはそういった繋がりがあったためだと思われる。そしてファンキー末吉はバンドと同じ名前のライブバーを今年五月に開店し、今日この店で太田明のセッションが行われたということなのだ。

さて、自分は筋肉少女帯のファンではあるが当初は別にそれほど積極的に行こうとは考えてなかった。まずライブバーに行ったことがない。一人で行っていいものなのか、どういった雰囲気の場所なのか皆目見当がつかず、敷居が高いように感じられたのだ。せめてX.Y.Z.→Aのファンならもう少し行きやすいだろうが、X.Y.Z.→Aの音楽は聴いたことがない。すると余計自分なんぞが行っては場違いではなかろうかと感じられ、やめといた方が無難であるように思われたのだ。

ところが予告で出された演奏曲リストを見たとたんにそれらの迷いは吹っ飛んだ。リストには筋少で一、二を争うほど好きな曲、「風車男ルリヲ」が含まれていたのだ。うおおおおおおおおおルリヲ! あのルリヲの大好きな怪しいドラムが、太田明本人によって演奏されるというのなら! もう行くしかないだろう! 行くよ! 迷いは捨てた! 終電も調べた! 地図も印刷した! オッケーだ!

道に迷うといけないので余裕を持って家を出た結果開店前に到着したが、既に大勢の人が列を作って並んでいた。バーは五階にあるが、列は入り口近くの階段へと続き最後尾は三階あたりまで伸びている。小さい店とのことだが入れるだろうかとドキドキしながら列に並び、開店時間が来るのを待った。

間もなく列は動き出して無事に店内に入ることができた。入店前にチャージ料金千円を支払い、割り箸とお手拭をもらって好きな場所に座る。店の奥にドラムが設置されているのが見えたので奥の方に行きたかったが、奥はテーブル席のようだったので一人では行きづらく、結局入り口からさほど遠くないカウンター席に腰を下ろした。とはいえこの位置からでもドラムは見えるし音を聴くのに不自由することは絶対にない。早速ビールと厚焼き玉子と枝豆を注文してセッションが始まるのを待った。

このセッションは「プロとJamろう」というタイトルのとおり、ドラマー以外は事前に参加希望を出したお客が演奏することになっている。店内には楽器を抱えた人があちらこちらに見えて、あぁ、ここはライブハウスとも飲み屋とも違うライブバーという場所なんだなと改めて思った。

あとライブハウスと違ってさっきまで演奏していた人が店内をふらふら歩き回ってたりカウンターで酒の注文をしていたりするってのがまた面白かったなぁ。太田さんが真横をすっすっすっと歩いていったりするんだよ。ここじゃ当たり前なんだろうけど慣れないからドギマギしたよ。

お待ちかねの演奏は「踊るダメ人間」からのスタート。ボーカルは筋肉少女帯のコピーバンドをやっているという青年で、町田町蔵の顔写真がプリントされたシャツを着ていた。いいなあれ欲しいな。駐車場のヨハネのジャケット写真だった。かっこいいなぁ。

今日は日曜日で下の店が休みだからうるさくしても大丈夫! だから太田さんを今日お呼びしました! という挨拶があったのは踊るダメ人間開始前だったかな。でも、この人数でダメジャンプをしたら床が抜けるかもしれないのでジャンプはせず腕でバッテンするだけにしましょうって話になったり。で、始まりましたよ始まりましたよ。うわーダメ人間だー!! ドスドスとした振動がバシンバシンと体に当たってくる。うわー。すげー。うわー。

ダメ人間の後には「日本印度化計画」。ここで太田さんが思い出話を語ってくれた。日本印度化計画が流行っていたとき、ファンの人に「カレーカレー」と呼びかけられることがよくあり、それでカチーンときて喧嘩をすることが度々あったそうな。ファンの人に悪気はなかったんだろうけどね、とも話していたな。質問者が「差し入れでカレーをもらうことはありましたか?」と尋ねると、冗談めかして「大槻はあったかもしれないけど、自分がもらうのは専らお酒だった」と答えていた。

印度に入る前にはボーカルの人が「こんな! 太田さんと演奏ができるなんてミラクルが起こるなら! もっとすごいミラクルが起こせるんじゃないのかい!」「例えば! 日本を印度にするようなことができるんじゃないのかい!」「日本を印度にしてほしいかと、問うならばー!」というオーケンっぽいMCで盛り上げ、さらに学園天国のヘイヘイコールまで挟んで大活躍だった。この人すごいな。

と、このように書き綴ってはいるのだがあまりに楽しすぎたためだいぶ記憶がぶっ飛んでいる。目の前のものを受け入れるのに夢中でいちいち覚えちゃいられなかったのだ。それほど楽しく、幸せだった。念願の「風車男ルリヲ」も嬉しすぎて細かいところは覚えていない。心地良かった印象だけが体にしっかり残っている。

筋少曲だけじゃなく、現在の太田さんが好んでいるレッチリなどのナンバーも三曲ほど演奏された。全く知らない曲ではあるがそれはそれで新鮮で楽しく、ボーカルの盛り上げ方もうまいのでノリノリになって楽しく聴いた。予告のリストではもう数曲あったのだが、筋少曲の演奏希望者が多かったため筋少曲をそれぞれ二回ずつやることになったそうで、それで時間の関係上変更になったのかもしれない。わからないけどね。

そして! 何の曲のときか、曲前か曲後かすらも覚えてないが! もしかしたら来てくれないかな〜と思っていた、橘高文彦が来てくれた! 店内の沸き立ちようのすごさといったらなかったなぁ。橘高さんは入ってすぐのカウンター席に腰を下ろし、笑いながら「俺は弾かないよ」と話していた。斜向かいの位置である。距離にして一メートル五十センチほどである。そんなところに橘高さんが座っていて、ちょっとわけがわからなくなりかけた。すげぇ。

橘高さんの登場と同時にか、先ほど印度で盛り上げた町蔵Tシャツのボーカリストが顔にオーケンのヒビ割れメイクをして現われた。ただし左右は反対だ。鏡を見て描いたら逆になってしまったのかわざとなのかはわからない。彼のMCを聴きながら橘高さんが「あのむかつく感じが大槻そっくり」みたいなことを楽しげに店員さんに話していた。一応誤解のないように書いておくがこれはけなしているわけではない。

オーケン関連と言えば、サインを頼みにきた女の子が怪獣ブースカの人形を持ってきてそれにサインをしてもらおうとしたところ、「ブースカはやだ」と断っていたのが面白かった。直前にパンダのぬいぐるみにサインをしていただけに笑いがこみ上げる。その後女の子がブースカへのサインをゲットしたか、別のものにサインしてもらったかまでは見ていない。

さぁ時間も流れセッションも残りわずか、最後の一曲か? というところでついに! お待ちかねのあの男が! 橘高文彦がセッションに参加したー! 客も立ち上がったー! 今まで座っていた客が少しでも近くで見ようと席から離れドラム前へと移動する。橘高さんは水玉のVをお客の誰かから借り、ボーカルは本日大活躍の町蔵Tシャツの彼である。彼が演奏曲を「少女の王国」と発表し、期待高まる中橘高さんが入りのギターを間違えて笑いが起きた。おいちゃんのパートをやってみようとしたら間違えちゃったということらしい。

太田さんと橘高さんの演奏が聴けるのは去年の武道館以来であり、それが自分にとっては最初で最後になるのだろうと思っていた。また聴けるんだなぁ。興奮しながらもどこかでしみじみとした感慨深さを感じていた。だが、しみじみとしていられない事態が起こった。少女の王国終了後、そのまま間髪入れずに「イワンのばか」に突入したのだ。うおおおおおおおおおお!!!!

「イワンのばか」ではドラムの音に合わせて拳で空気を叩く振りがある。叩いた空気から音が弾け、自分の拳とドラムが一つになるような錯覚が感じられてすごく好きだ。今日は来て良かった。何て素晴らしい夜なんだろう。

一度目にイワンを演奏したとき、太田さんはCDと同じようにドラムを叩いて演奏は終了した。ところが二度目のときは、ライブでやるときのように、さらにシンバルを「シャン、シャン、シャンッ」と叩いてもう一盛り上がりを見せてくれた。ライブではフロントに立った四人が後ろを振り返り、シンバルを待つ場面である。そっから弾けるのがまたかっこいいんだ。これが聴けたのが嬉しくてしょうがない。

演奏終了後、橘高さんが「またこれからもやりたいね、色々な意味で」と太田さんに言っていて、その「色々」の部分につい自分は期待を感じてしまった。いやいやいや。でもそれは置いておくにしても、またこういうセッションをやってほしい。次も日にちさえあれば絶対に行くつもりだ。やってくれないかなぁ。

セッションが終わってからもまだ終電まで時間があったので自分は冷奴を食べつつビールを呑んだ。その間にお姉さんとは反対側の隣の席の人とも話をした。スタッフの一人だというその人からは、なかなか興味深いというか、びっくりするような話を聞かせてもらってとても面白かった。こういう人と話すのもよく考えれば初めてだ。今日は新鮮な体験が多いなぁ。

他にまだ書いてなかったこと。太田さんは今はハードロックとは違う音楽をやっているが、それはハードロックを嫌いになったからではなく、テクニックを追求した結果別のジャンルに行き着いただけだということ、今までで一番良い演奏ができた「風車男ルリヲ」は月光蟲ツアー最後の武道館ライブでのもの、ファンキー末吉さんは橘高さんと太田さんの関係を心配していて、「太田君呼びたいんだけどいい?」と橘高さんに聞いたということ。太田さんだけ筋少に戻ってないから気まずいものがあるのではないかとファンキーさんは思っていたのかな。

出来ることならもっとその空間にいたかったが、終電が無くなると困るので日付が変わる前に店を出た。電車に乗ってからも余韻を引きずったままで、あれは現実のことだったのだろうかとまるで夢のように思う。未だにだ。また本当に「これから」が実現してくれるといいな。幸せなひと時だった。



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