デビュー30周年記念ツアー Final【溢れる人々 2018】 (2018年7月7日)

必要なときに必要なタイミングで必要なものを得られるありがたさってのは格別であり、奇跡に近いものだよなぁ、と思う。

デビュー三十周年記念に加え、デビューアルバム「溢れる人々」の再現ライブということもあってか本日は大入り満員で、さらに3-10Chainではこれまで体験したことのなかった圧しが発生し、ライブが終わった頃には汗だくになっていた。見てはいないが、感覚的に己の背中あたりではモッシュも発生していたように思う。

もみくちゃになりながら拳を上げ、水戸さんに促されては大声で歌い、渦巻くような熱の中で間近で歌う水戸さんの歌声がダイレクトに全身に浸透していく心地良さ。このところはなかなか忙しく、故に精神的にもしんどい状態であった。オーケンでもヒラサワでもなく、水戸さんの歌声を必要としていた。必要としていたときにライブがあって、前から二列目で、ステージの上からオーディエンスに覆いかぶさるように前傾して力いっぱい歌う水戸さんの白い顎鬚を見上げながら歌声を浴びることができる喜び。心の中のざわざわしたものが歌声の威力によって溶かされて、空っぽになったところにエネルギーが充填される至福。今日この日にこのライブを観ることが出来たことは、本当に己にとってありがたいものだった。

大入り満員ゆえにライブが始まる前から酸素の薄さを危惧していた水戸さんは、序盤にオーディエンスに向けて「小さく息をするように」と冗談めかしたリクエストをするものの、熱狂の中では誰しもが大口を開けて興奮していたに違いない。そんな中でも水戸さんは大柄な体でのしのしと動き回り、コミカルに踊り、大振りなアクションで観客を煽り、長い足で力いっぱいジャンプし、しっかりとステージを踏みしめて着地する。酸素の薄さも年齢も感じさせない格好良さは相変わらずだった。

十分ほど押して開演し、一曲目はインストゥルメンタルの「縁」。この瞬間にドッと盛り上がり、人々が前に詰め掛けてびっくりした。いや、多少は予想していたが。していたが! こんなに序盤から圧しが発生することは早々ないのでびっくりしてしまったよ。

とはいえ、その熱狂が心地良い。常々思っていたのだ。もっとガッと盛り上がりたいな、もっと皆ガッと盛り上がれば良いのにな、と。不死鳥のライブでも、大抵は圧しが発生するのは後半のアンジー曲がきっかけだ。その波に飲まれて楽しみつつもずっと思っていた。他のところでも爆発が起これば良いのにな、と。

故に、今日のライブはある意味で願望が叶えられたとも言えるだろう。流石にモッシュまで起こるのは想定外でもあったが。

二曲目は「ジョニーは鼻毛がヒッピースタイル」! 最近はズンドコバージョンで聴くことが多かったので、久しぶりにロックバージョンを聴けて嬉しい! この曲もすっかり定番化したなぁ。新しい曲がこうして根付いていくのはファンとしてはたまらないものがあるね。

今日は「溢れる人々」がメインで、それ以外に何をやるかは予想がつかなかったこともあり、「ハーイここまで」「芋虫ロック」が聴けたのはサプライズのように感じられ、非常に嬉しかった。特に「芋虫ロック」。切なくてやるせなくて、それでいて好きなんだよなぁ。

「溢れる人々」パートからはもうすごかった。盛り上がりがとてつもなく、体験したことはなく映像を観たこともないものの、かつてのアンジーのライブとはこういうものだったのだろうか……と思わされた。水戸さん曰く、●周年などのキリの良い数字の公演には普段よりも観客が詰め掛けるとのことで、加えて今回は「溢れる人々」の再現ということで、普段は来ないアンジーファンも訪れたに違いない。今日久しぶりに来てくれた方々が、3-10やウタノコリなどの水戸さんのライブにも来てくれると良いな、是非今の水戸さんの魅力を知って欲しいな、と思った。

個人的に一番印象に残ったのは「サーカス」だ。照明の色が変化し、ステージがどす黒い赤に染められ、重々しい音が響き渡る。ゾッとするような迫力と駆け上がるように盛り上がる演奏の威力。今日の「サーカス」はとりわけ、凄まじかったなぁ……。

一転、「ジュー・ジュー」から空気がガラッと変わって踊り狂う楽しさったら。「溢れる人々」が作られたのはまだCDが出始めたばかりの頃で、「溢れる人々」もアナログレコードとCDの両方を作って発売したそうだ。そして当時の水戸さんはまだCDに慣れておらず、アナログレコードのようにA面・B面がないCDで、どうやって曲を構成したら良いのかわからず悩んだと言う。そんな中で水戸さんが辿り着いた答えは「ライブのような曲順にすること」。A面・B面がなく、最初から最後までぶっ通しである特性を考えてのことだ。

よって、始める前はどんな感じになるかと水戸さんも思っていたそうだが、意外にもアルバムの曲順で演奏しても違和感がなかったとのこと。MCの中で水戸さんが、「これに味を占めて黄金時代の再現ライブをやるとしたら……、あのね、今『おー』って盛り上がったけど、実際やってみたら『あれ?』ってなると思うよ」と笑って釘を刺していた。セカンドアルバムからは水戸さんもCDに慣れ、CDらしい曲順を考えられるようになったそうだ。

そうそう、中盤の思わぬところで水戸さんに左手をガシッと握ってもらえて嬉しかったなぁ。興奮しすぎて忘れてしまったが、あれは何の曲だっただろう。力強い手だったなぁ。

「笑い者」について。「溢れる人々」は発売時に新しく書いたものがほとんどだが、「笑い者」だけはずっと昔から歌詞も変えずに歌ってきた曲とのこと。これをライブハウスで歌っているときに、ライブハウスのオーナーだか店主だかに「盛り上がる曲だけでなく、こういう歌があるのは信用できる」と言われたことが思い出に残っているそうだ。

三十年前に歌っていた曲を今も歌い続けていて、今も歌い続けられているというのは途方も無いことのように思う。その途方も無い時を越えて、三十年前を知らなかった人間もその歌を聴くことができるのは水戸さんがずっとこうして活動をし続けてくれたからだ。だからきっとこの先にも、今はまだ水戸さんに出会えていないながらも、五年後十年後に水戸さんの歌に出会える人が出てくるのだろう。

その新たな出会いが増えることを願いながら、これからも自分は水戸さんを応援していきたい。

鳴り止まないアンコールの中で「罪よ歌となれ」「素晴らしい僕ら」が歌われ、ダブルアンコールでは延々と終わらない「でくのぼう」! 水戸さん、澄ちゃん、内田さんがステージからいなくなり、元尚さんも……と思ったら機材の裏にひっそり隠れていて、パタパタッと出てくるとドラムを叩き出し、呼び出されるメンバー! 沸騰するオーディエンスに、でくのぼうの大合唱! 拳を振り上げ振りぬき、ステージから見ればまるでオーディエンスは群体から成るひとつの生き物のように見えたかもしれない。水戸さんに引き寄せられるように数々の腕が伸び、うねり、白熱する。

このとき、目と鼻の先に澄ちゃんのギターがあって、とんでもない至近距離でギターソロを奏でる指先を見ることができて失神しそうになった。贅沢な体験だった……。

そしてまだまだアンコールは続き、ついにトリプルアンコール! 流石に水戸さんも疲れた面持ちを見せていたが、それでも「花火」でがっつり盛り上げ、大きなジャンプまで見せてくれた! 常々思うが……水戸さん、膝が丈夫だなぁ……!!

MCではツアーの途中で立ち寄ったブラジリアンパークで内田さんが生まれて初めて絶叫マシンに乗ったエピソードが語られたり、サンバショーのお姉さんと水戸さんが対決したりといった面白トークも披露され、腹の底から笑ってたまらなく楽しかった。

ライブが終わった後に一息で呑み干したビールの美味しさったら。あぁ、自分は今さぞかし汗臭いんだろうなぁと思いつつ、夜風に吹かれながら興奮でぼおっとする頭を冷やす心地良さもまた格別だった。最高に素晴らしい夜だったな。





ジョニーは鼻毛がヒッピースタイル
知恵の輪

ハーイここまで
芋虫ロック
センチメンタル・ストリート

天井裏から愛を込めて
幽霊
カナリア
サーカス
ジュー・ジュー
アストロボーイ・アストロガール
夜の行進
霧の中
わいわいわい
笑い者
おやすみ

~アンコール~
罪よ歌となれ
素晴らしい僕ら

~ダブルアンコール~
でくのぼう

~トリプルアンコール~
花火



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