「猫のテブクロ」完全再現+11(恵比寿版)LIVE (2017年3月18日)

いつか遠足三部作をライブで観てみたいものだとぼんやり夢見ていた自分に教えたい。2017年にその夢が叶うよ、と。
そのうえで思う。あぁ、まさか2017年に、猫のテブクロのライブが観られるなんて、と。

完全再現と言うことで、トレードマークの金髪を黒く染めた橘高さん。今では度の合わなくなった円いサングラスをかけた内田さん。白の手袋を指にはめ、神父を彷彿とさせるかつての衣装に身を包んだオーケン。しかし当時そのままではない。内田さんの髪はまっすぐに伸び、オーケンは短くも美しい銀髪だ。橘高さんは炭水化物の制限を自身に課して頑張っている。発売から二十八年の月日が経ち、メンバーは年齢と経験を重ねた。そしてこの会場にはかつてを知る人と、知らない人が集まって皆一様にステージを見つめている。

「猫のテブクロ」はエディの脱退によりツインギターバンドとなった筋肉少女帯のデビュー作とも言える代物で、カバー以外のほとんどを内田さんが作曲した筋少の中でも異色のアルバムである。新たな筋少として活動を進めるうえでの試行錯誤がこの一枚に詰まっていることが感じられ、その試行錯誤を乗り越えた結果が今の筋肉少女帯である。そしてそれを体言するかのように、一曲目から怒涛のメタル「イワンのばか」に始まり、カーネーション・リインカーネーションに繋がる攻めの姿勢!

あぁ、やはり今は1989年ではない、2017年なのだ!! ますます嬉しくなって噛み締めてしまう。

MCの後のブロックでは意外なところで「みんなの歌」と「吉原炎上」。「吉原炎上」がここで聴けたのは嬉しい。最近の曲だがともすれば忘れられているのではないか、と危惧していたところである。これの「女衒も天仰ぐ」ってところの歌い方がたまらなく好きなんだよなぁ。

「吉原炎上」の後、橘高さんがボーカルをとる宣言をし、オーケンがステージからはけていく。とすると、「おわかりいただけただろうか」か「小さな恋のメロディ」かな……と予想を立てつつ見守っていると、予想だにせぬ一曲が始まり歓声と奇声が湧き起こった。

まさかの「俺の罪」である。橘高さんが。あのメタルの橘高さんが、俺の罪!!

しかも! 内田さんパートにて、内田さんが「歌うよ歌うよ~」とアピールしていたら……下手から聴こえる声! 驚くそぶりを見せる内田さんの視線の先には……マイクを握り分厚いボーカルを響かせるおいちゃん!!

これはびっくりした。とてもびっくりした。そして面白かった……。あの「俺の罪」の歌詞を歌う橘高さんは実にキュートであった……ギャップがあるだけに破壊力がすごかった。

ちなみにこの後、「俺の罪」の歌詞が大好きな長谷川さんにオーケンが「大槻内田版と橘高本城版……どっちが……」と問いかけるシーンがあった。長谷川さんは恐らく「どっちが好き?」といった質問が来ることを予想していたのだろう。ところが、来たのは「どっちの方が罪深い?」という質問で、長谷川さんはずっこけるようなそぶりをし、ドラムスティックで上手と下手を指し、橘高さんが喜び、「喜ぶんだ!?」とオーケンが驚いたのであった。

ステージに戻ってきたオーケンは白手袋をはめ、かつての衣装に身を包んでいた。そしてオーケンにより「猫のテブクロ」部分がこれより始まることが宣言されたのである。部分。部分。

まずは「星と黒ネコ」。短いながらも存在感のある一曲だ。
静かなアコースティックギターの調べに息を呑んでいると、持ち出されるは拡声器。

今までに何度となくライブで耳にした「これでいいのだ」は、初めて観る「これでいいのだ」だった。近年タオル回し曲としての役割を担っている「これでいいのだ」。間奏部分ではコールアンドレスポンスでガンガンにボルテージを上げていくのが常である。それは間違いなく楽しいが、「これでいいのだ」という楽曲が持つ物語性が失われてきたことも事実であった。あの冤罪で収監された男が、やるせなさの中で自問自答をし、ようやく「だがしかし」まで辿り着く。

自分はもしかしたら、初めて本当の「これでいいのだ」を観たのかもしれない。間奏で設置されたキーボードを、背を丸めて弾く内田さんの横で詩を読み上げるオーケンの声。それはかつてのライブ映像で観た景色に似ていて、あぁ、これを今観られるのか、と改めて感慨深く思った。嬉しかった。

「星の夜のボート」にじっくりと耳を傾け、待ちわびた遠足三部作! あぁ、これを聴けるなんて、聴けるなんて思わなかったなぁ! 「最期の遠足」を初めてライブで観たのは「どこへでも行ける切手」の初期曲限定ライブだったと思う。しかしあれはDVDに収録されなかったのだ。今改めてこの場で観られるのが実に嬉しい。あの攻撃的なギターの音色とブラックな歌詞の組み合わせがたまらない。

「月とテブクロ」の静かに展開して爆発する感じはこのアルバムの総括としてふさわしい。「黒ネコの爪を折る」の箇所ではオーケンの癖が強く出ていて、そこだけが少し気になった。

しっとり終わったかと思えばここからまた「週替わりの奇跡の神話」「くるくる少女」「釈迦」と続いてぎゅんぎゅん詰めの中盛り上がり、本編ラストは「愛の讃歌」。ここでオーケン、歌いながらオーディエンスの方に手を伸ばして握手をしてくれるのだが……このとき、手を伸ばしたら、指先と指先が触れた。指先と、指先が、触れた。

瞬間、そのわずかな接触から電撃と歓喜が走りぬけ、心臓がBPM180を記録し、恋に落ちる錯覚をしそうになった。嬉しかった。嬉しかった!!

さらにアンコール一曲目はまさかの「詩人オウムの世界」。「猫のテブクロ」完全再現だけでも嬉しいのに、これをやってくれるなんて! この曲の情景描写の美しさがたまらなく好きで、紫の蝶が空を覆い尽くす妖しさに何度魅せられたことだろうか。ここでもしっかり語ってくれてもうありがたいったら。

面白かったのは「犬はワンワンと吠え、猫はニャーニャーと鳴き」の箇所で、「猫はワンワンと吠え」と言い間違えたオーケンが、「あれ?」と一瞬不思議そうな表情を見せ、次に何の動物の名前を出せば良いか迷っていた場面である。結果、猫は二回登場した。

最後はサンフランシスコで締め。MCでは、アルバム一曲続けてやると昔のことを思い出すね、と昔話に花を咲かせたり、不意に声をかけられた内田さんが「アタシ」という一人称を使ったところ、オーケンが「二十年来の幼馴染の一人称が変わる瞬間!」とびっくりして、その後何かにつけては「アタシ」「アタシ」と自ら称してネタにしていた場面もあった。

興味深かったのは橘高さんが金髪にしたのはオーケンの言葉がきっかけだったこと。「橘高君金髪似合うんじゃない?」とオーケンに言われた橘高さんは、当時バンドに入ったばかりだったので、バンドリーダーがそう言うなら、と金髪にしたのだと言う。無論それは要素の一つであり、ずっと金髪にこだわり続けたのには他の思いもあってのことだと思うが、あの橘高さんの美しい金髪はそうして生まれたのか、としみじみしたのも事実である。オーケンがその発言を覚えていないのもまた良いな、と思った。

あぁ、それにしても。この楽しいライブを明後日また観られるなんて。今回はチケットの整理番号が九十番台だったのでかなり前の方に行けたので、次回はちょっと後ろに下がって観てみようか。と言いつつ、また前に突っ込んでしまうかもしれないが。ふふふ。



イワンのばか
カーネーション・リインカーネーション

みんなの歌
吉原炎上

俺の罪(橘高さん・おいちゃんボーカルver)

星と黒ネコ
これでいいのだ
日本印度化計画

星の夜のボート

Picnic at Fire Mountain 〜Dream on James, You’re Winning〜
Go! Go! Go! Hiking Bus 〜Casino Royale〜, 〜The Longest Day〜
最期の遠足

月とテブクロ

週替わりの奇跡の神話
くるくる少女

釈迦
愛の讃歌

~アンコール~
詩人オウムの世界
サンフランシスコ


未分類0杯, 筋肉少女帯, 非日常