景観する循環カフェ (2016年11月17日)

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平沢進のファンクラブ限定イベント「景観する循環カフェ」に参加した。場所は吉祥寺のスターパインズカフェ。ステージ前に椅子が敷き詰められ、二階席からはステージを見下ろせる構造になっている、と、冷静に書き出そうとしているものの既に脳が爆発しているので指の動きもままならない。

平沢進のファンクラブに入会して六、七年経つが、これまでファンクラブ限定イベントが開催されたことはなかった。故に開催が発表されたときは大いに驚き、ファンクラブ限定の空間で平沢がどのように振舞ってくれるか興味深く思ったものだ。そして迷わず申込みをし、運よく当選し、運よく素敵な整理番号が割り振られ、運よく最前列で平沢進の姿を拝むことができた。

目と鼻の先。たった一メートルの距離に平沢進が存在していた。実在していた。
そうして、こぼれる笑顔を隠すことなく、柔らかな空気でトークをしてくれるのである。

よって己の脳は爆発したのである。幸福だった。

イベントは二部構成になっており、前半では事前に募集していたファンからの質問に答える形でトークが繰り広げられ、休憩を挟み、後半でライブ。楽器や声による音をその場で録音して再生し、次第次第に音を重ねていき、即興の多重録音にボーカルを乗せて歌う姿はミュージシャンの演奏というよりも、職人技を見せ付けられる見事さがあった。曲は「ロタティオン」「電光浴」「CHEVRON」の三曲で、最後の「CHEVRON」ではオーディエンスの声を録音し、楽曲の一部に取り込む催しも。平沢が「さん、はい!」と小声でタイミングを示し、「うーうっ」と会場全体で声をそろえること繰り返すこと数回。集ったファンの声は一つの音と化し、音楽の一部となって会場内をぐるぐる旋回し、さらにその上に平沢の声が重ねられたのであった。

「景観する循環カフェ」の名にふさわしく、演奏された三曲とも「循環」がテーマなこともにくい。上手に声を出せたことを平沢にお褒めいただき、電源を切れば消える多重録音はその空間でのみ旋回したのであった。

第一部と第二部では空気が全く違うのも印象的だ。第一部では眼鏡をかけ、事前に募集したリスナーからの質問が書かれた紙を見つつ、横に座る司会の女性が読み上げる質問に答えながら朗らかに話してくれた。しかし第二部が始まるや一変、眼鏡を外し、照明が落とされたステージで機材に囲まれながらギターを抱くその表情は、まるで弓を引き狙いを定め今にも矢を放つ寸前のよう。張り詰めた空気が漂い、自然と開場もその渦に呑まれたのであった。

かと思えば最後の最後。アンコールを要求されて却下した平沢が、代わりにとプレゼントお渡し会をやってくれたが、その方法がすごい。プレゼントのオリジナルピックについての説明を語った後、「間接的手渡しをする」と宣言した平沢。何が起こるんだとステージを見つめているとスタッフがわらわらと集まってきて流しそうめんのような装置が組み立てられた。

客席に放流するように設置された四本の樋。そして放流する側に立つ平沢。間接的手渡しとはそういうことか! と納得しつつ、このためにわざわざこんなものを作ってしまう平沢に感服しつつ、平沢によって放流されたピックを「ありがとうございます!」と言いながら受け取ったのだった。この光景、二階席から見たらさぞかし異様だったことだろう。こういうちょっと捻じ曲がったファンサービスが愛おしい。

トークでは、アウトテイクは公開するつもりがないからどんどん削除するという話が面白かった。本人はどんどん削除したいので現在はどんどん削除しているが、過去の楽曲は原盤権などの問題で、レコード会社から勝手にアウトテイクをくっつけたCDを販売されることもあり、そういうのは好ましくないそうだ。しかしスタッフから宮沢賢治の全集をプレゼントされたとき、全集の中にあった宮沢賢治のメモや草稿を見て「これが見たかった」と大喜びした話が司会者から明かされる。「私は見たかったけど、宮沢賢治も嫌だったと思いますよ」と笑っていた。

あと使わなくなったアミーガを処分しようとしてスタッフに止められたり、止められるのが分かっているから事後承諾の形でことを進めようとする話もこの流れで語られた。ちなみに過去にPV集を作って販売する話も上がってはいたが、権利問題がややこしく立ち消えになった話も。……PV集……欲しかったな……。

平沢がツイートした造語への質問に対して、「皆よく覚えているね」「みんんさって何のことかと思った」と自分のツイートを覚えていない発言も。そりゃあそうだろうと思いつつ、大勢から「みんんさ」とリプライをもらって首を傾げる平沢を想像すると微笑ましい。

己が投稿した質問も採用された。脳が爆発した。平沢が質問を読み、考えて、答えてくれたこの事実! 間接的にピックをプレゼントしてくれたり、間接的に質問に答えてくれたり、あまりにも贅沢すぎるイベントである。嬉しかった。ありがたかった。今日は良い夢が見られそうである。至福。

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